糖尿病とインプラント治療の関係って?
投稿日:2025年9月3日
カテゴリ:スタッフブログ
インプラント治療は、失った歯の機能と見た目を回復させる現状最も優れた方法です。技術や材料の進歩で適用できるケースも広がってきていますが、全身疾患の状態によっては治療の成否や長期でみたときの安定性に大きな影響を与えることがあります。その代表的な全身疾患が「糖尿病」です。
糖尿病は血糖値のコントロール不良により、体のあらゆる組織の治癒力や免疫機能に影響を与える病気です。インプラント治療においても「オペの成功率」や「治療後の安定性」に直結するため、注意が必要です。
今回は、糖尿病がインプラント治療に与える影響する時期を「インプラント埋入オペ前後のタイミング」と「インプラント埋入以降」とに分けて整理してみましょう。
1. インプラント埋入オペ前後のタイミング
■ 血糖コントロール不良による創傷治癒遅延
糖尿病患者は血管が障害されやすく、血流が悪化しています。そのため、インプラント埋入オペで切開した歯ぐきやドリルで穴を開けた骨の治りが健常者の場合と比べるととても遅くなります。特に血糖値が高い状態(HbA1c 7.0%以上:基本的にこの数値以上でインプラント埋入オペを行うことはありませんが…)が続くと、治癒過程が阻害されスムーズに進みません。傷口の閉鎖や骨とインプラント本体との結合が遅れたりします。
起こりうるトラブル
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・傷口の治癒遅延による違和感・疼痛の延長
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・骨との結合不良によるインプラント本体の脱落
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・インプラントと骨の結合失敗
■ 感染リスクの増加
糖尿病により免疫機能が低下し、細菌に対する抵抗力が下がります。その状態におけるインプラント埋入オペでは、口腔内の常在菌によって感染が起きやすくなります。
起こりうるトラブル
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・手術部位の通常より著しい腫れや化膿
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・創傷からインプラントフィクスチャーやその周囲組織への細菌感染
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・インプラントフィクスチャー周囲の炎症と脱落
■ 骨質への影響
糖尿病では骨代謝が安定せず乱れやすく、骨の密度や骨質が低下している事が多いです。その結果、インプラントと骨の結合が弱くなりやすく、初期段階での安定性(初期固定)の確保が難しいことがあります。
起こりうるトラブル
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・インプラント本体の動揺と周囲からの排膿
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・インプラント埋入後早期の脱落
対策
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・術前に血糖コントロールを行う(HbA1c 7.0%未満が望ましい)
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・内科医との連携を密に図り全身状態を確認してからオペを行う
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・感染予防のため、抗菌薬やうがい薬の適切な使用を行う
2. 糖尿病とインプラント埋入後に対する影響
■ インプラント周囲炎の発症リスク増加
糖尿病患者は歯周病リスクが高く、またそれらは相互に増悪し合う関係性があることは、すでに広く知られていることでしょう。インプラントにおいても同様で、インプラントの歯周病である「インプラント周囲炎」を発症しやすくなるだけでなく、症状も強いものになる傾向があります。
起こりうるトラブル
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・インプラント周囲の腫れ・出血
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・骨の吸収によるインプラントの動揺
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・最終的にインプラントの喪失
■ 長期的な骨結合の不安定化
糖尿病により骨代謝が正常に働かない場合、時間の経過とともに骨吸収が進みやすくなります。その結果、初期には問題がなかったインプラントが数年後に不安定化することもあります。
起こりうるトラブル
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・インプラントの寿命が短くなる(インプラント本体の動揺と脱落)
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・歯ぐきや骨の形態が変わることによる上部構造(被せ物)の不適合発生の可能性
■ 口腔乾燥・唾液分泌の低下
糖尿病の合併症のひとつとして、唾液分泌の低下があります。唾液が少ないと口腔内の自浄作用が低下し、細菌の繁殖を助長します。これはインプラント周囲炎のリスクをさらに高める要因となります。
起こりうるトラブル
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・口臭
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・インプラント周囲炎の悪化、増悪
対策
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・定期的な歯科検診とインプラントのメンテナンスを短めのスパンで受診する
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・毎日のプラークコントロールを歯間ブラシ・フロスを活用し徹底する。
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・糖尿病治療をちゃんと継続し、血糖コントロールし、HbA1cを安定させるよう努める。
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・唾液分泌を促す工夫(まめな水分摂取など)
まとめ 糖尿病患者でもインプラントは可能だが、厳しい条件付き
糖尿病は、インプラント治療の成功率や寿命に大きな影響を与える要因のひとつです。オペ前では創傷治癒や骨との結合の遅延、インプラント周囲への最近感染リスクの増加があり、オペ後ではインプラント周囲炎や骨吸収リスクの増加や症状の悪化傾向が強く現れます。糖尿病の影響はインプラント治療のあらゆる段階に深く影響を与えてきます。しかし、糖尿病だからといってインプラント治療が不可能というわけではありません。血糖値が安定しており、歯科と内科が連携して適切な管理を行えば、多くの方が良好な結果を得ています。
インプラント治療を検討されている糖尿病患者の方は、まずは内科医と歯科医の両方に相談し、全身状態を踏まえた上で安心安全な治療計画を立てることが大切です。
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